【弁護士が解説】相続人が活用できる、預貯金の仮払い制度とは。

  1. 相続

【弁護士が解説】相続人が活用できる、預貯金の仮払い制度とは。

およそ40年ぶりに相続法が改正され、2019年7月1日より相続が大きく変わりました。新しく創設された「預貯金の仮払い制度」について山本弁護士に解説をお願いしました。

▼目次
1. 預貯金の仮払い制度
2. 従来の制度
3. 預貯金の仮払い制度の創設
4. まとめ

 
仮払い

1. 預貯金の仮払い制度

今回は相続法改正のうち「預貯金の仮払い制度」について解説します。この制度の創設により、相続人の生活費や被相続人の葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの緊急の資金需要に対応できるようになりました。

2. 従来の制度

従来は、預貯金も遺産分割の対象となるため、相続人全員の同意がない限り、各相続人単独での払い戻しはできないとされてきました。
そうなると、相続人の生活費や被相続人の葬儀費用など、急ぎの支払いが困難になってしまいます。
そこで、今回の相続法改正により「預貯金の仮払い制度」が創設されました。
この制度は、次の二つの手続きにより利用することができます。

3. 預貯金の仮払い制度の創設

①金融機関の窓口で直接仮払いの請求をする方法
共同相続人のうちの一人が金融機関の窓口で仮払いの請求をする場合は、
相続開始時の預貯金額×1/3×その相続人の法定相続分=単独で払い戻しをすることができる金額
となります。
ただし、一金融機関当たりの上限額は、150万円となります。
そのため、例えば、A銀行に1,200万円、B銀行に2,100万円の預金があり、共同相続人が配偶者と長男、次男の三人で、長男が払い戻しの請求をした場合には、A銀行からは100万円、B銀行からは150万円の仮払いを受けることができます。
この手続きは、裁判所手続きが不要なため、費用と時間が節約できる点がメリットですが、引き出し額に上限があることがデメリットです。

②家庭裁判所の保全処分を利用する方法
この方法は、引き出し額に上限はなく、申立額の範囲内で必要性が認められれば、特定の預貯金の全部を取得することもできる点がメリットです。
しかし、家庭裁判所への申立など煩雑な手続きをしなければならないので、手間と費用と時間がかかるという点や、相続債務の弁済のためなど、仮払いの必要性を疎明しなければならない点がデメリットです。

4. まとめ

上記①、②どちらの手続きを利用するかは、相続人の必要な金額に照らし合わして使い分けをすることになると考えられます。
預貯金の仮払い制度は、遺産分割を待っていられない「お金の事情」が発生したときに有益な制度です。
遺産分割はすべての法定相続人の同意が必要になるので、完了までに時間がかかることが珍しくありません。
急を要するときに預貯金の仮払い制度を活用してみてはいかがでしょうか。

 
― 取材協力 ―
山本法律事務所
長野県松本市島立798-1 YSビル102
弁護士 山本 賢一 氏
http://www.yamamoto-lo.jp/

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