5年生存率が低い「膵がん」への対策をしよう

  1. 健康

相澤病院の「健康があいことば」
ときに癒し、しばしば和らげ、つねに慰む。

地域がん診療連携拠点病院として、がん医療の整備に積極的な相澤病院では、難治性のがんの代表「膵がん」とどのように向き合い、どう患者さんをサポートしているのでしょうか。

相澤病院の「健康があいことば」vol.18

▼目次
1. 罹患率が低い。5年生存率も低い。それが「膵がん」。
2.「自分の家族だったら」と考える。
3. 膵がんにかかりやすいかを知る。そして、膵がんであるかを知る。

 
膵がん

1. 罹患率が低い。5年生存率も低い。
 それが「膵がん」。

余命が短い。打つ手がない。そんなイメージの膵がんだが、やはり不治の病なのだろうか。日々、膵がんの手術を執刀する高医師に実情を伺った。
 
-- やはり膵がんは怖い病気ですか。
膵がんの部位別罹患率を松本市の人口比で換算すると、罹患者は年間 人ほど。一番多い大腸がんの四分の一程度とごく稀です。一見すると、それほど怖がる病気ではないように思えます。
しかし、5年生存率は大腸がんの70%に対し、膵がんはその十分の一の7%に留まります。そう考えると非常に怖い病気です。
 
-- なぜ生存率が低いのでしょう。
発見しづらいんです。とても。
まず、膵がんにはわかりやすい症状がありません。初期ならほぼ無症状、進行してくると腹痛や黄疸、体重減少、糖尿病の悪化などが挙げられますが、それらは他の病気でも出る症状です。つまり特有の症状がない。それが膵がんの特徴なので、症状から膵がんを見極めるのは困難です。
さらに、膵臓の位置も膵がんを発見しづらくしています。
膵臓は胃の裏側にあり、おなかからも背中からも遠い場所。そのため、検診で行われる腹部超音波検査でも見えない「死角」が発生してしまいます。膵臓をしっかり見るには腹部CT検査が良いのですが、検診には含まれていません。
特有の症状がない。検診でも見つけづらい。だから発見時にはかなり進行してしまい、がんが大きく拡がっている。ゆえに膵がんの生存率は突出して低いのです。
 

2.「自分の家族だったら」と考える。

生存率の低い膵がん。ここに糸口を見出すとすれば、発見のタイミングがカギとなりそうだが、果たして、膵がんを根治できる治療法はあるのだろうか。
 
-- まず、根治の可能性はあるのでしょうか。
あります。エビデンス(科学的根拠)のある治療は3つ。手術・化学療法・放射線療法です。
膵がんのように目に見える固形がんを治すには、例外はあるものの、基本的には手術しかありません。手術単独で難しい場合には集学的治療の化学療法や放射線療法で補いつつ、手術の道を探ります。
近年は本当に化学療法の発展が目まぐるしく、手術の前や後に化学療法をすることで、周囲の重要臓器への影響を最小限に食い止めて手術できるようになっています。
 
-- 民間療法は選択肢としてないのでしょうか。
エビデンスのある三大療法に害を及ぼす恐れがあるため、それ以外はお勧めしません。が、頭ごなしに否定もしません。三大療法に害を及ぼさない範囲で、かつリスクを把握しているなら、患者さんの気持ちを尊重すべきと考えています。
 
-- ロボット手術やAI技術の台頭には期待できますか。
将来的には期待できるかもしれません。ただ、少なくとも私自身は、ロボットに手術をしてほしくないですね。辛さといった感情が共感できない相手に、自分の身体なんて預けられないですよ。
私には大切にしているポリシーがあるんです。あらゆる場面において「患者さんが自分の家族だったら」と考えること。それが私の行動基準です。
例えば手術。どこを切って、どう縫うか。やることは決まっていますが、そうした一つ一つの所作を、どれだけ丁寧にできるかということは非常に重要なんです。糸を切る動作一つとっても、短すぎては縫合不全を起こし、最悪、死に至ることもあります。
膵がんの手術は平均して8時間はかかる大手術です。これだけ長いと、執刀医も人間ですから途中で緊張が緩む気持ちもわからなくはない。ところが、もしその患者さんが自分の家族だったらどうでしょう?きっと全てをとても丁寧にやりますよね。絶対にそうです。
だから私は常に「自分の家族だったら」と考えて取り組んでいますし、後進の医師やスタッフにもそのように指導をしています。
 
-- 家族と思って、ですか。
はい。診断するときも同じです。
治療方針について本人の心が決まっていれば問題ありません。しかし、迷っている時は医師としての助言が必要になります。そんな時こそ自分の家族だったらどうするだろう、と考えるわけです。
治療にはガイドラインというものがありますが、それに当てはまらないことも少なくありません。がんは千差万別。人それぞれです。だからこそ、価値観を丁寧に聞き、家族と思って考える。それがとても大切なんです。ルールブックでは人の人生は決められませんから。
 

3. 膵がんにかかりやすいかを知る。
 そして、膵がんであるかを知る。

手術に辿り着きさえすれば、膵がんにも根治の可能性がありそうだ。では、早期発見をするためには一体どうすれば良いのだろうか。
 
-- 私たちにできることは何でしょうか。
まず、自分が膵がんにかかりやすいかを知ることです。家族性は明らかに重要なリスクです。親や兄弟、子供の中で、2人以上の膵がん患者がいれば家族性といえます(1人では家族性ではありません)。また、糖尿病や肥満といった生活習慣病も膵がんのリスクファクターです。
それらに該当する方は、理想を言えば毎年、少なくとも2年に一度は腹部超音波検査の入った検診を受けてください。可能であれば、膵がんの血液検査(腫瘍マーカー)や全身のがんをチェックするPET検査を追加してください。膵ドックといった専門のメニューがあれば、MRCPというMRIの検査が含まれているため、より詳細に調べることができます。
これらで異状が見つかると、消化器内科が複数の詳しい検査で徹底的に調べ、早期に膵がんが見つけられれば手術です。
治療は日々進歩しています。ですからぜひ、定期的に検査してください。早く発見できれば治せますし、予後も明らかに違います。いずれにしても、まずは皆さんが動いてくれないと始まりません。

 
- 取材協力 -
相澤病院 外科センター
肝胆膵外科 統括医長
高 賢樹
http://www.ai-hosp.or.jp/shinryo/dept_3.html

相澤病院のサイトはこちら
http://www.ai-hosp.or.jp

ライター:上田雅也
※この記事は、コンパス第23号(令和元年12月27日発刊)に掲載されたものです。

本、出しました。

当サイトで最も高い閲覧数を誇る「今昔」。
それをさらに掘り下げ、書き下ろしました。

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