手書きの文字をお墓に彫る
~ お墓を慮る ~
お墓に文字を刻む際に転写の技術を用いれば、故人が書き残した手書きの文字や息子・孫の手書きの文字などをそのまま彫ることができます。
そこで今回は、実際にあった転写にまつわる感動秘話を彫枡グループの代表・杉本さんに伺ってきました。
私はお戒名彫刻のご依頼を受けると、お墓や彫る位置の確認のため、一度は必ずお施主様と現地をご一緒します。
現地ではお位牌や過去帳を見比べ、誤字脱字がないかなどの確認をします。そして、墓石に彫る順番などを決めてゆくわけですが、都合上、家族構成をお聞きすることもあります。
すると、時折その中で、いくらかの世間話が始まったりします。
こんなことがありました。
「旦那さん(戒名として刻む方)が詠んだ俳句があるの」
と、奥さん。それを聞いて、よほど仲良しだったのだろうと、私にはすぐに分かりました。
「山口県から、こんな遠くの信州まで来てくれて。長男だったのにね……」
そう言って見せてくれた俳句は、旦那さんの人柄が表れる優しい句で、さらにその句は、綺麗な色紙に繊細な文字でしたためられていました。
「この句をどこかに刻めないかしら?」
と尋ねられた私は、
「もちろん出来ます」
と答えたのですが、さらに聞くと、その句を清書したのは高校生のお孫さんとの事。
「そうであれば、この字をこのまま墓石に刻みましょう」
私がそう提案すると奥さんは
「そんな事が出来るの?孫の字で出来るならお父さんも孫も喜ぶわぁ」
と言って、少し涙目になりました。
正直、嬉しかったですね。こういう技術を持っていて、本当に良かった。
今でこそ、戒名彫刻も合理化が進み、フォントを選んで画一的な文字で刻む事が主流ですが、元々は書家さんやお寺さんが書いた文字をそのまま刻んでいました。彫師は転写師だったわけです。
今では、転写を知らない、やりたがらない彫師がほとんどとなりました。確かに、転写は時間も手間もかかります。ただ、一生に一度の事。気持ちのこもったモノを気持ちが残る形で表現できるなら、それはやった方がいい。私はそう思います。
昔からある技術を学んでおいた事が、人の役に立った。
そう思えた、とある梅雨の合間の晴れの日でした。
- 取材協力 -
彫枡グループ
代表
杉本 弦洋 氏
住所:長野県松本市笹部4-477-5
電話:0263-55-4320