【相澤病院】 陽子線治療 について

  1. 健康

相澤病院の「健康があいことば」
最新医療「 陽子線治療 」について

二人に一人が「がん」。「これからの健康」を考える上でがん治療の知識は欠かせません。そこで今回は、先進がん治療「陽子線治療」について、相澤病院 陽子線治療センター長の荒屋医師にお話を伺ってきました。

相澤病院の「健康があいことば」vol.06

▼目次
1.がんは、老化現象の一種
2.注目される「集学的治療」
3.だから、セカンドオピニオン
4.新たな選択肢「 陽子線治療 」
5.治療成績と副作用のバランスがとれた治療法
6.陽子線治療がより効果的ながん
7.印象に残っている患者さんの言葉
8.小児や年配者に新たな希望となる治療

陽子線治療

相澤病院 陽子線治療センター長
荒屋 正幸

1.がんは、老化現象の一種

日本人の死因で最も多いのは「がん」です。しかし、日本人ががんにかかりやすいわけではありません。80年までは結核や脳血管疾患が死因の第一位でした。ところが、日本の医療の進歩に伴い、それまで上位を占めていた死因で亡くなる方は減少、その結果、がんの死亡率は上昇しました。がんは一定の年齢以上になると発現率が高まります。もちろん、発現しない人もいますが、がんは老化現象のようなものです。長生きすればするほど、どんな方でもがんを患う確率は高まります。
 

2.注目される「集学的治療」

いまのがん治療には、主に3つの手段があります。「手術療法」「化学療法(抗がん剤)」「放射線療法」です。どれも確立された方法ですが、最近は特に「集学的治療」が注目されています。がんの集学的治療とは、主な3つのがん治療(手術療法・化学療法・放射線療法)の、どれか単独で治療を行うのではなく、がんの種類や進行度に応じて、様々な方法を組み合わせる治療法です。がんは往々にして、一つの治療法のみで十分に効果を出すことが困難な病です。そのため、がん治療では集学的治療が注目されているのです。
 

3.だから、セカンドオピニオン

がんは一つの治療法のみで成果が出るとは限りません。治療法について不安があれば、セカンドオピニオンを受けることも可能です。たとえば「陽子線治療について話だけでも聞いてみたい」など、高度な情報収集の一つとしてもセカンドオピニオンは使えます。セカンドオピニオンを拒否する医療機関はありません。がん治療にはたくさんの選択肢がありますので、積極的にセカンドオピニオンを活用してみてください。
 

4.新たな選択肢「 陽子線治療 」

陽子線治療とは、放射線療法の一つです。理論上、放射線はどんながんも死滅させることができるので、がんに対してはとても有効的です。しかし、放射線は正常な細胞にも影響を与えてしまい、障害を引き起こすリスクもあります。そこで開発されたのが、この「陽子線治療」です。治療効果を保ちつつ、副作用を低減。そのため、がん治療の新たな選択肢として、非常に高い関心を集めています。日本では現在、12施設でこの陽子線治療が行われています。
 

5.治療成績と副作用のバランスがとれた治療法

従来のX線による放射線治療では、放射線量は皮膚の近くが一番高く、体の奥へ向かうほど低減し、さらに病巣を突き抜ける特性があります。そのため、効率的な治療ができないばかりか、病巣の奥にある正常組織への影響は避けられません。これに対し、陽子線の放射線量は、皮膚の近くは低く、特定の深さに到達したときに最大値まで高まります。さらに、特定の深さより奥には突き抜けないという特性があります。病巣には充分なダメージを与えつつ、その奥や手前にある正常な組織への障害を最小限に抑える。それが陽子線治療の大きなメリットです。
 

6.陽子線治療がより効果的ながん

すい臓の周りには、胃や小腸、大腸といった放射線に弱い臓器があります。そのため、すい臓がんは通常のX線による放射線治療では、副作用のリスクが高まります。首より上の頭頸部がんも同様です。また、一定の大きさ以上のがんでは、周りへの影響を考慮して、十分なX線は照射できません。 こうした周辺組織への影響が大きく懸念されるケースでは、陽子線治療は非常に効果的な治療と考えられます。

陽子線とX線の放射線量比較

7.印象に残っている患者さんの言葉

80代の女性は、通常X線が効かないとされているがんにかかり、主治医のもとでX線による放射線治療を受けようとしましたが、あまり効果が期待できなかったので、治療をあきらめました。しかし、陽子線治療の話を聞きつけて、片道1時間以上かかる当院へ来院されたのですが、陽子線治療を始めたとたん、腫瘍はみるみる縮小。ご本人もご家族も本当に喜ばれ、現在も健康に暮らしています。前立腺がんだった男性の、陽子線治療中の生活は「午前中に農作業、午後に治療」というものでした。陽子線治療は切らない治療のため、このように日常生活を続けながら通院での治療が可能なことも特徴です。「目立った副作用もなく、良い意味で、治療している感じがしなかった」と、とても嬉しそうな顔が印象的でした。ちなみに、治療時間はがんによって様々ですが、前立腺がんの場合、1回あたりの治療時間(治療室に入ってからの時間)は、およそ25~30分程度です。
 

8.小児や年配者に新たな希望となる治療

陽子線治療は、小児がんの患者さんに対し、晩期の成長障害や、放射線治療後の二次発がんのリスクが軽減できます。また、切らない治療法なので、手術を受ける体力がない高齢者や合併症で手術ができない方にも、新たな希望となる治療法です。手術できないことは、治療法がないことを意味しているわけではありません。化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療もあります。がんにはたくさんの治療法があり、新たな治療法も生まれています。陽子線治療もその一つです。もし気になる方がいたら、主治医の先生に「陽子線治療の話が聞きたい」とセカンドオピニオンを求めてみてください。
 
がん治療は、様々な選択肢の中から自分に一番合った治療法を、納得した上で選ぶことが大切です。相澤病院では、がんに関するご相談を、ご本人も含めご家族からも承っております。ぜひお気軽に、がん患者・家族支援センター(電話:0263-33-8600)をご利用ください。

 
■相澤病院 陽子線治療センターとは■
http://w3.ai-hosp.or.jp/ptc/
世界でもトップレベルの治療装置を備えた先進がん治療施設「陽子線治療センター」。精密な治療を可能にする高度な装置を備え、複雑な形状のがんにも対応。また、「がん集学治療センター」とも直結しているため、様々な治療を組み合わせることもできる。
 
相澤病院のサイトはこちら
http://www.ai-hosp.or.jp

 
ライター:上田雅也
※この記事は、コンパス第11号(平成27年12月28日発刊)に掲載されたものです。

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