春のお庭 に出かけよう ~ 中信地区の庭園を訪ねて ~

  1. コラム

春のお庭 に出かけよう ~ 中信地区の庭園を訪れて ~

 
春の陽気に誘われて、散策をしてみませんか。ここでは、自然を楽しみ、心癒される時間を過ごせる。そんな中信地区の有名なお庭をご紹介します。
 
春のお庭 木漏れ日

国の重要文化財 ~
  馬場屋敷 

馬場屋敷は、江戸時代末期の民家建築。平成四年、現在の十六代目当主馬場太郎さんにより、屋敷の主要部分が松本市に寄付され、平成八年、国の需要文化財に指定された。そして現在、松本市博物館分館の重要文化財「馬場家住宅」として一般公開されている。

春のお庭 馬場屋敷

馬場家は、武田信玄の家臣の縁者「馬場亮政(すけまさ)」を初代とし、武田氏滅亡を機に松本市内田に移り住んだ。江戸時代には広大な田畑を持ち、当地の領主である諏訪高島城主と親密な関係を保ち(当時の松本市内田は、松本城主が領主ではなく、諏訪高島城主が領主であった)、特別な地位にあったといわれている。
先代の十五代当主は、メキシコの日本人移民を救った外交官、馬場称徳。その物語は「メキシコの月 信州の月」(郷土出版社)として書籍化されている。また、同じく郷土出版社より出版された「蘭子のピアノ」も、馬場家にまつわる物語だ。蘭子さんは現当主の奥様であり、この本には、彼女が所有するドイツ生まれの一台のピアノをめぐる、数奇な物語が綴られている。
そんな馬場家の住宅は、国の重要文化財に指定されている上、市特別天然記念物のケヤキをはじめとし、屋敷林と草花に囲まれている。まず、表門まで通じる遊歩道。タケが植えられた土塁には、清閑さを感じずにはいられない。
門庭。春になると芝桜が咲き誇り、その色鮮やかさには目を見張る。
門長屋。五月下旬には、濃い紫色のアヤメが門長屋に沿って五十メートルほど咲き連なり、濃い色の花弁が雨にぬれる様には風情を覚える。
見ごろは春ばかりでない。夏は山野草、秋は紅葉、冬は雪吊りされた庭園と、馬場屋敷ではいつでも日本の季節が感じられる。さらに、ここから一望できる松本平と北アルプスは、それこそ年中格別だ。
いくつもの物語と美しい景色に溢れる馬場屋敷。ここは、信州と信州の季節がいつでも楽しめる静かな名所だ。

 
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~ 春の輝き ~
みどり湖湖畔の水芭蕉

みどり湖の南西側湖畔にある水芭蕉園は、約千二百平方メートルの広さ。水芭蕉といえば人里はなれた湿原に群生するイメージが強いが、みどり湖では、約三千六百株の水芭蕉が散歩がてら気軽に観賞できる。

春のお庭 水芭蕉

この地に水芭蕉を植えたのは、塩尻市の平出正美さん(故人)。当時六十一歳の昭和五十八年からほとんど一人で開墾に取り組み、最初は約六十平方メートルに二百株だったが、年々棚田の面積や水芭蕉の株数を増し、平成十八年にはおよそ今の規模の園にまで育てた。過去の新聞記事を振り返ると、いかに正美さんがコツコツと水芭蕉を育ててきたかがわかる。正美さんの長男で、塩尻市会社役員の平出芳雄さん(六十六歳)は語る。
「当時、あの地はササやヨシが生い茂る荒地だった。父はそこへ一人で通い、毎日のように泥だらけになって開墾した。そして、母は泥だらけのその作業着を毎日洗濯していた」
平成二年には「水芭蕉まつり」が開催されるようになり、観光客らで終日にぎわうようになった。東京などから家族連れらが次々と訪れ、サービスの甘酒を飲みながら花見を楽しんだり、水芭蕉をバックにカメラのシャッターを切っている様子が記録に残っている。しかし三年前の春、二十年以上にわたり園を維持管理してきた市民団体が高齢化などを理由に解散。せっかくの園は再び荒れ放題となってしまい、水芭蕉まつりも中止となった。それに胸を痛めた芳雄さんが、同年秋、父の植えた水芭蕉を守ろうと友人らに協力を求め、「みどり湖水芭蕉の会」を発足。膝丈以上に伸びた雑草をチェーンソーや鎌で刈り、泥が詰まっていた群生地の用水路を修復した。そして翌年の春には、水芭蕉まつりも再開させた。今年も4月12日(日)に開催予定だ。
正美さんの信条は「花を愛する者に悪人はいない」だったとか。親子が中心となって、育て守っている水芭蕉。可憐に花開く季節が、今か今かと待ち遠しい。

 
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~ 安曇野の原風景に出会う ~
開運堂「菓遊庭」

「開運老松」「真味糖」などの信州代表銘菓から、「一口チーズケーキ松本牧場」「ピジュトリー」などの洋菓子まで、今や信州のみならず、全国にファンを持つ開運堂。その工場と店舗、喫茶からなる総合施設が、この「開運堂あづみの菓遊庭」だ。総合施設と言っても、安曇野の景観を損なわないよう、実に敷地の30%が緑地であり、様々な草木により四季が豊かに演出されている。

春のお庭 菓遊亭

ところで、2005年に建設されて以降、多くの人が訪れている菓遊庭だが、ここに一つの秘話があるのをご存知だろうか。実は、この菓遊庭は、松本市中央にある「開運堂本店」と、「常念岳の頂上」を結ぶ線上に位置する。そして、菓遊庭にある三角池の斜めのラインこそが、その、本店と常念岳山頂を結ぶラインなのだ。
さて、この秘話を知った上で、ぜひ一度、ここ菓遊庭から北アルプスの貴婦人「常念岳」を見て欲しい。池に映る逆さ常念とあいまって、四季折々の常念岳が、まさに貴婦人の如く美しいことを再発見するだろう。
水もまた、美しく美味しい。アルプスの良質な伏流水を地下200メートルから汲み上げており、実際この水は、お菓子作りにも使われている。水量も豊富とあって水場が設けられており、容器さえ持参すれば、この安曇野の天然水を持ち帰ることも可能だ。
中庭からは、散策がてらお菓子の製造作業の一部が見学でき、また、カフェが併設されているため、雄大な北アルプスを望みながらの語らいも楽しめる。これからの季節には桜萬寿や桜もち、あるいは柏もちや草だんごが、旬な語らいの友になるだろう。
早春の蝋梅・マンサクの開花から、春の新緑、夏の緑陰、そして紅葉、さらに晩秋には、赤い柿やナナカマドの実。いつの季節でも誰かが主役の庭が迎えてくれる中、菓子作りを見て、菓子に舌鼓を打ち、語らいを楽しむ。お菓子は地方文化の象徴と言われているが、この安曇野の菓遊庭で、信州の文化に触れる春はいかがだろうか。

 
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