相澤病院の「健康があいことば」
治療だけの時代は終わり。
「キュア」と「ケア」の両立が、これからのがん医療。
相澤病院は放射線治療装置を複数有する、全国的にも稀な病院と言われています。進化するがん医療の中、相澤病院ではどう放射線治療を活かし、患者さんを支えているのでしょう。
相澤病院の「健康があいことば」vol.17
▼目次
1.管理された状況下であるから、猛毒は良薬に変えられる。
2.切らないがん治療が常にベストとは限らない。
3.今は「治す」だけががん医療の目的ではない時代。
1.管理された状況下であるから、猛毒は良薬に変えられる。
原爆や原発事故により、危険な印象の強い放射線。長年、この放射線を利用する治療に携わってきた小田医師の目に放射線治療はどう映っているのだろうか。
-- 放射線を使う治療は、やはり危ないのでしょうか?
放射線治療は、がんに狙いを定めて身体に放射線を照射することで、がん細胞を死滅させる治療法です。これが「危なくない」とは言い切れませんよね。それは、手術や化学療法といった他の治療法も同じです。手術は穿った見方をすれば、刃物で身体を切る行為です。化学療法は戦争で使用された化学兵器、マスタードガスから偶発的に生まれた治療薬から始まりました。
無法に行えば、いずれも危険な行為です。しかし、厳格に管理された環境下であれば、猛毒も良薬となり、人命を救う手段となりえます。ですから、私は医療施設で適切に照射された放射線が「危険なもの」とは考えていません。
-- 放射線はコントロールされている、と。
そういうことです。しかしながら、副作用というリスクが存在し、放射線治療を行った部位で一時的なやけどに近い状態となります。ただ、そうした状態が体内で起こるため、肉眼では確認できず、別の症状となって出現します。例えば肺がんなら咳が出るようになる。かゆみ、痛みとなることもあり、さらにその症状が数ヶ月、数年後に出るということもあります。ですから、私たちはこうした副作用を極力軽減するため、ミリ単位で放射線をコントロールし、照射しています。
2.切らないがん治療が常にベストとは限らない。
相澤病院に導入された陽子線治療などの登場により、欧米に劣らず、日本でも放射線治療、いわゆる「切らないがん治療」は主流となり得るのだろうか。
-- 欧米では、切らないがん治療が主流だと聞きました。
日本では手術に代わる治療として、放射線による「切らない治療」が話題となっていますが、アメリカではがん患者さんの二人に一人以上が放射線治療を受けています。普及の原因は、欧米人の罹患するがんの種類にあります。欧米では手術が最も有効な手段と言われる胃がんが希少で、逆に放射線治療の有効ながんが多く、「切らない治療」が普及してきました。一方、日本では胃がんがまだまだ高い罹患率を誇っています。
ゲノムサイエンスの現代では、患者さんから採取したがん組織を個別化医療に役立てようとする動きがあります。ところが「切らない治療」ではがん組織が採取できませんので、ゲノム医療の恩恵から遠ざかってしまうかもしれません。
このことから、「切らない治療」を選ぶべきでないケースがあること、つまり、切らない治療が常にベストとは限らないということがお分かりいただけるかと思います。
-- がんの種類によって治療法が決まっているのですか。
違います。部位はもちろん、がんの進行度や手術歴、年齢、生活背景といったことも重要な判断材料です。それを主治医一人が判断せず、キャンサーボードによって多角的に判断すべきでしょう。
相澤病院では、様々な専門領域の医師が集まるキャンサーボードで、患者さんの症状や状態、療養環境を踏まえて、病院として治療方針を決めています。これにより、一つの専門領域の意見に偏らない判断ができるのです。
-- 放射線治療の医師は、放射線を当てているのですか。
確かに、かつては「当て屋」と揶揄される職人でした。しかし今では、トモセラピーやガンマナイフ、ピンポイントで突き抜けない陽子線治療に代表される高度な装置を用い、腫瘍に放射線を集中させ、副作用を減少させるために、高精度で管理する指揮官に変わりました。
放射線治療が患者さんにどう寄与できるのか。
私は今、「当て屋」ではなく、がん治療チームの一員かつ放射線治療の指揮官として、患者さんとの関わり方に重きを置いています。
3.今は「治す」だけががん医療の目的ではない時代。
機械が行う放射線治療の場においても、患者さんとの関わり方が大切だと強調する小田医師。これからの時代、空間といった所にも配慮が必要と言う。
-- 病院といえば白一色のイメージですが、相澤病院は違いますね。
やはり意外でしたか。昔はどこも白一色の冷たい空間でした。
がんは治れば良い。残念ながらそういう時代がありました。がんと言われれば、誰もが気落ちをするものです。そこに来て、青白い蛍光灯に無機質な医療機器、消毒のにおいがしたら、とても不安で冷酷に感じませんか。
今はそんな時代ではありません。相澤病院の場合には、医療者の雰囲気づくりからインテリアに至るまで気を配っています。私が患者さんに寄り添う時も同じ。患者さんと一緒に私が沈みこんでもいけないし、明るすぎてもいけない。阿吽の呼吸が大切なんです。
-- 治療だけをしている時代は終わったということですか。
切ってつなげるだけ、ただ放射線を当てるだけではダメです。これからは、治療(キュア)に癒やし(ケア)が必要な時代です。
患者さんのために、生活のためにできる医療を私たちは考えています。そういうのって、医師が押しつける、治すだけの治療では無理ですよね。患者さんがいいと思う医療であり、ご家族も納得できる医療。かと言って、「がんビジネス」というものがあるくらいなので、もちろん医療者が正しく導き出した医療でなければならない。どこかが欠けてしまえば、やはり不具合が起きてくる。この三方良しながん医療こそ、個別化医療の真骨頂と思っています。
- 取材協力 -
相澤病院
がん集学治療センター
トモセラピーセンター長
小田 京太
http://www.ai-hosp.or.jp/shinryo/b_center_12.html
相澤病院のサイトはこちら
http://www.ai-hosp.or.jp
ライター:上田雅也
※この記事は、コンパス第21号(令和元年9月30日発刊)に掲載されたものです。