【2020年夏号 巻頭特集】
乗り越えられない壁はない
ダイヤモンド・プリンセス号と、当社
コロナウィルスの集団感染により、横浜に停泊していた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号。その生活排水の処理にあたっていたのが、松本市の企業・株式会社トータルシステムだ。風評被害を懸念して辞退する会社もあった中、なぜ請け負うことを決断したのか。代表の清水社長に訊ねた。
具体的には、どんな依頼だったのでしょう。
大型クルーズ船は、マルポール条約という国際ルールにより、適切に処理した排水なら3海里(約5.6km)離れていれば海に放出してよいことになっています。当時の報道番組で、時折クルーズ船の姿が港から消えていましたよね?あれは適切に処理された生活排水を海に放出するため、沖に出ていたからなんです。
しかし、一時的にでも離岸は控えるべき、との結論に至り、廃棄物収集車両を持ついくつかの企業に声がかかります。そして、トラックで横浜港から一番近い下水処理場へと排水を運搬することになったのです。
この依頼はすぐに快諾したのですか?
いいえ。当社に依頼があったのは、とある企業が辞退した後のことです。おそらくその企業は、風評被害を懸念してお断りしたのでしょう。
私もそれについては不安でした。
他の業務に支障をきたしたら。
そんな心配は拭えませんでした。ただ、これは誰かがやらなければならないことでしたし、当社には設立当初から大切にしているポリシーがあります。結果的にはそれを貫きました。
そのポリシーをお聞かせください。
当社がこの業界へ参入したのは平成10年。決して早いわけではありません。ですから、初期は「緊急で少量」の仕事ばかりでした。
回転寿司に例えれば、末席に座っていた状態です。いくら待っても、良いネタは回ってこない。
それでも、周りが見向きもしないネタでも食べ続けていれば、「あいつらはよく食べるから」と、板前さんが自分たちの目の前に来て握ってくれるようになる。
仕事も同じです。そうやって実績を積み重ねていくしかないのです。そして、私たちは今でもそれを続けています。初心忘るるべからず、です。
ただ、銀行からはしばしば指摘を受けます。
「このバランスシートを見る限り、固定資産が少なすぎます」
その度、私は答えています。
「うちの最も大切な資産は、<人>と<廃棄物収集車両>ですから」
時には、「人件費率が高すぎる」と言う人もいましたが、その時は真っ向から反対意見を申し上げたものです。
「利益が出たら、最初に社員さんに還元したいので!」
考えてみてください。社員さんにお金が渡り、彼らが消費した方がみんな楽しく幸せに経済を回せます。
そうです。結局は人です。人が一番大切です。ですから、最後に一言、ぜひ名誉のために言わせてください。
当社はダイヤモンド・プリンセス号の排水処理に携わりましたが、あれから約半年、今まで一人も感染者は出ていません。
ですから、コンパスさん、お願いしますよ。
社会に貢献した英雄(社員さん)たちが間違っても風評被害に合わないよう、しっかりした記事にしてくださいよ!
- 取材協力 -
株式会社 トータルシステム
清水 克貴
https://www.erc-co.jp/ts-yuasa