人生会議と家族会議
~ 心の相続 ~
以前から「家族の日」や「家族会議」の重要性を訴えてきた板倉さんは、今回の厚生労働省が発表した「人生会議」の話題をどう捉えているのだろうか。
人生会議。
厚生労働省によるポスターが話題となったことで注目されたこの「人生会議」とは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称です。今後の治療や療養について、患者さんとその家族、医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスを意味します。重要なのは結果を出すことではなく、話し合いを重ね、共有するプロセスです。
一方、私が常々お話ししている「家族会議」は、人生会議よりもっと前段階で行うことを想定していて、「会議」というよりも「会話」です。家族が集まって「あーしたら、こーしたら」と考えを出し合う会話が「家族会議」です。
私はこの「家族会議」は非常に重要だと考えています。家族が自分の意見を自由に出し合うからこそ、本人が納得できることはあるでしょうし、家族も支援の道筋を立てやすくなります。また、家族会議を踏まえた上での人生会議ならみんな幸せになれますが、もし家族会議を経なければ、人生会議は専門家のアドバイスを元に、ただ形に落とし込むだけの仕分け作業になる可能性があります。
人生会議は最終チェックをする場所なのに対し、家族会議は家族だけで将来の提案をする場所です。ですから、家族会議は家族全員が健康で元気な時にやるべきです。
古今和歌集に、在原業平のこんな句が収められています。
つひに行く/道とはかねて/聞きしかど/昨日今日とは/思はざりしを
以前から誰もが最後に通る道とは聞いていましたが、まさか自分にとって、それが昨日今日の話になるとは思いもしませんでした。
在原業平は晩年、この句にそんな驚きと嘆きをこめて謳っています。
いつ訪れるかわからない。だからこそ、私は元気な今、家族で終末医療や葬儀のこと、相続のこと、色々な未来について話し合っておくべきだと思うのです。
形あるものは必ず壊れてしまいます。それは人間も例外でなく、年齢・性別・時期にも関係がありません。これを浄土真宗では「往生の素懐」と呼んでいますが、家族にとって悔いのないお見送りができて、お互い感謝の気持ちでお別れすることができたら、それは最高の人生ですよね。
- 取材協力 -
NPO法人 シニアプラネット
代表理事
板倉 富男 氏
ホームページ:http://kura-e.com/index.html