特集【米想道(こめそうどう)】EH酒造

  1. コラム

安曇野市唯一の酒蔵、
米騒動にアイガモ農法。

 令和の米騒動の真っ只中でも、酔園蔵元EH酒造は変わらない。純米吟醸「逢醸(あいがも)」の原料となる酒米を、今年も例年通り、手間のかかるアイガモ農法により行うという。安曇野市唯一の酒蔵、EH酒造。その酒づくりの根底にある哲学〈米想道〉を訊ねた。

酔園蔵元 EH酒造株式会社
取締役社長 吉田浩次

農家への敬意

 令和7年6月2日、朝。安曇野の水田に 羽のアイガモが放たれた。ピィピィかわいい鳴き声とともに、思い思いに泳ぐ姿が田園風景に溶け込んでいく。
 その傍で、吉田社長は語る。
「私も消費者のひとりとして、米は安いほうがいい、という気持ちはわかります。しかし……」
 と、社長はつづける。
「安曇野の米は、本当に美味しいんです。ただ、その美味しさは、農家の方々が手間と愛情を惜しまず注いでくださるからこそ。だから私は、安ければいい、とは決して言えません。おいしいお米があって初めて、おいしいお酒が生まれるのですから」
 農家への敬意。
 EH酒造の酒づくりには、真摯に米と向き合う誠実さを感じる。

アイガモ農法は効率がいい

 一般的に、有機農法は効率が悪い。特にアイガモ農法は、一説によれば生産性が1〜2割落ちるという。
 が、農家であり杜氏でもある鈴木さんは、それでもアイガモ農法は効率がいいという。
「アイガモ農法の効率が悪いというのは、人間を基準にした時の話です。自然を基準にすれば、アイガモ農法は非常に効率がいいんです」
 たしかに、アイガモは草を食べ、虫を食べ、そして、彼らのフンは肥やしになる。まるで無駄がない。
「本来、効率とは手間を省くことではなく、無駄がないことです」
 と、鈴木さんは笑顔で続ける。
「それに、有機農法で育つ米は粒が大きく、雑味が少ない。結果として酒米に適し、クリアな味わいを生み出すお酒へとつながるんです」
 まさに、アイガモ農法はこの上なく効率的だ。

EH酒造の米想道とは

 お米の価格高騰を受け、全国では酒米から主食用米へ転作する農家も出てきたそうだ。NHKによれば、日本酒がユネスコ無形文化遺産に登録されて追い風が吹くこの時期に、酒米が手に入らないかもしれない、と不安を漏らす酒蔵もあるという。
 それでも、吉田社長に迷いはない。
「安曇野の米と水、そしてこの風景と、その中で育まれるお酒。私たちは安曇野市唯一の酒蔵として、安曇野市の農家さんと一緒に、伝統を守り続けますよ」
 聞けば、純米吟醸「逢醸(あいがも)」は、東京でも少しずつファンを増やしているそうだ。安曇野の味が、都会へ届き始めている。同じ信州人として誇らしい気持ちになる。
 鈴木さんも口を揃える。
「うちが食用米に変えるなんて考えられませんよ。長年の付き合いもありますし、何より私自身、農家であり杜氏でもありますから」
 EH酒造の米への想いは、ここで全てを語り切ることは無理そうだ。しかし、確実に言えることは、創業した200年前も、今も、そしてこれからも、EH酒造の米想道が、ひたむきな「安曇野愛」であり続けている、そういうことだと私は思う。

酔園蔵元 EH酒造株式会社
取締役社長 吉田浩次
【住所】安曇野市豊科高家1090-1
【電話】0263-72-3011
【web】https://www.eh-shuzo.com/

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