あったまる話① ~ 少しほっこりしませんか ~

【2018年冬号 巻頭特集】 あったまる話

今年も寒い冬がやってきました。そこで、皆さんに心温まるお話をお届けします。今回は、社会医療法人財団 慈泉会 理事長・相澤病院 最高経営責任者である相澤孝夫様、松本アルプスライオンズクラブ 題54期会長 上松伸様、有限会社 寿昇運 代表取締役社長 赤羽昇様、長野グリーンシティライオンズクラブ 第5期会長 五明久昇様からお話を伺ってきました。

 
あったまる話①

【 あったまる話① 】
困っている人のために、愚直にまっすぐ。

◇ 生活と医療は一体のもの

私の医療の原点は、祖父が開業し、父が戦後に継いだ相澤医院にあります。当時は今のように大きな病院ではなく、町の小さな医院でした。そして、私もまだ小さな子供で、よく父にオートバイの後ろに乗せられて、往診に連れて行かれたものでした。あの頃の住宅は長屋も多くて、六畳一間は当たり前でした。そこに具合の悪くなった人が寝ていて、父はその家の人と色々話をしながら診療しました。それから何が必要かを伝えると、必ず帰り際にこう言いました。
「いつでも呼んでくれれば来るからね」
家の人はとても喜んでくれました。「ありがとう、ありがとう」と、本当に感謝されました。でもお金はもらわないことが頻繁でした。代わりにお米やダイコン1本などをもらって帰りました。戦後間もない頃だったから、お金のやりとりがないことも多かったのです。それでも父は往診を続けました。人と人との出会いがもたらす温かさ。その共有こそが、父にとっての医療だったのでしょう。そして、私もその概念は引き継ぎました。というようり、それは自然と染みついていきました。だから私は、生活と医療は一体してあるべきだと、そう思うようになったのです。

 

◇ 「断らない救急医療」を掲げるわけ

父は直接来院した患者さんに対しても、何時だろうと対応しました。あの頃は戦争で負けた直後だったから、心がすさんでいる人も多くいました。松本の駅前でもよく喧嘩があって、怪我をした人が頻繁にやって来ました。牛車で運び込まれる患者さんも多くいました。荷台に布団が敷いてあって、具合の悪い人が救急車に乗るように運び込まれました。当時の相澤病院では牛車がやって来ると、誰もが一旦手を止めて駆け寄りました。薬局の人も検査の人も、事務員も看護師も医師も、全員が飛び出して布団をかつぎ、治療に当たりました。文字通り「チーム医療」です。そして、それは夜中だろうと関係ありませんでした。当時は病院と自宅が隣り合っていて、私は救急患者が来ると必ず目が覚めました。ですから鮮明に覚えています。父は本当に、何時でも診療にあたっていました。私が「断らない救急医療」を掲げているのはそういうわけです。父にとって、いつでも診療するのが当たり前だったように、私も困っている人が訪ねてきたなら、例えそれが何時だろうと、診療するのが医療の当然だと思っているからです。

 

◇ いつでも愚直に直球勝負

実は、私は父から一度も「病院を継いで欲しい」とは言われていません。しかし、私は父の本心に気付いていましたから、高校を卒業すると東京慈恵会医科大学に進学しました。そして、大学を卒業すると松本に戻り、まずは信州大学第二内科に勤務しました。古田先生とはその時に出会いました。私がとてもお世話になった先生です。医局で肝臓の研究をしていた時、研究費を調達してくれた先生です。とても厳しく、しかし優しく、とにかく曲がったことを本気で嫌う方でした。口癖は「愚直に生きる」。そして、私と同じく野球が好きで、先生も私も医局対抗野球にはよく参加したものでした。医師としては尊敬できる方でしたが、ピッチャーには不向きでした。豪快なフォームで豪速球を投げるのですが、コントロールが悪いからストライクが入らないのです。すぐに四球で点が取られたものでした。それでも、いつでも堂々と直球だけを投げました。とても魅力的な古田先生が数年前に亡くなりました。私はお葬式に出ることができなかったので、せめて弔辞だけでもと気持ちをしたためました。そこにはこう綴りました。
「先生、僕は先生に教わった人生を歩んでいきます。名声や地位のためではなく、自分が正しいと思ったことを貫きます」

 

◇ 気付けば父と同じ医療

医局での肝臓の研究はやりがいがありました。いよいよ研究が新たな局面を迎えそうな時のことです。父に進行がんがあることが発覚しました。
「研究をやめて、すぐ相澤病院に戻りなさい」
古田先生にそう言われ、私もそう思い相澤病院に戻りました。
 
私が戻ってほどなくして、父は食事も摂れなくなりました。それでも、父は点滴を打ちながら回診を続けました。そして、口を開けば患者さんのことばかりを話し、本当に自分が余命三、四ヶ月と認識しているのか疑わしくなった程でした。一方で、父は私と二人きりの時はほとんど黙っていました。私も黙っていました。父との間には、必ずしも言葉を必要としなかったからです。とにかく一緒にいることが大切でした。きっとお互いが理解しあっていると、そう確信していたからでしょう。
 
結局、父は三ヶ月後に亡くなりました。とても大きな悲しみがやって来ましたが、しかし私にはそれに浸れる余裕はありませんでした。副院長に就任し、多忙を極めたからです。ほとんど家には帰れなくなり、病院に寝泊まりばかりしていました。妻が朝ご飯と着替えを持ってきてくれて、その時に洗濯物を持ち帰ってもらう。そんな日々が続きました。
往診は私一人が引き継ぎました。誰もやりたがらなかったからです。色々ありました。「苦しそうだから来て欲しい」。そんな電話があれば夜中でも駆けつけました。2階の寝室と1階の風呂場を、患者さんをおぶって行き来したのは一度や二度ではありません。ある時などは、家族があまりに心配だと言うものだから、どうにも帰れなくなって往診先に泊まったこともあります。本当に色々ありました。ただ、私はこうした経験から、医療がどうあるべきかを考え、実行に移してきました。

 

◇ すべては困っている人を助けるため

私は院長になってからも、自分が正しいと思ったことを貫いてきました。陽子線治療の導入もそうです。手術はどうしても身体への負担が大きくなるから、手術が受けられなくて困っている人を助けたかった。それだけです。
人と人との関係がなければ、いい医療もいい医療ではなくなります。逆に、人と人との関係だけで、そこに技術がなければ医療とは呼べません。両方があって初めて医療として成り立ちます。
『病気を診るのではなく、患者さんを診なさい』
これは私が卒業した大学の開学者の言葉です。相澤病院はこれで110周年を迎えますが、どれだけ医療技術が発達しても、こうした大切なことは見失わないよう心がけていきます。
よい人間関係の上に発揮された正しい医療こそ、質の高い医療です。私はこれからも、父のように困っている人を助けるために、古田先生のように信じるべき道を愚直にまっすぐ歩んでいきます。

 
社会医療法人財団 慈泉会 理事長
相澤病院 最高経営責任者
相澤 孝夫
http://www.ai-hosp.or.jp/

 
あったまる話② ヘレン・ケラーのように。
あったまる話③ 「ありがとう」の輪が、もっと広がりますように。
あったまる話④ 自分たちも参加して楽しむ、という奉仕。

 
このエントリーをはてなブックマークに追加

 
タイトルをクリックすると、関連記事をお楽しみいただけます>
前話 【2018年秋号 巻頭特集】読書の秋 ~そうだ、本を読もう。~

 
① 【特集】泉質辞典01~信州の温泉へ行こう~
  【特集】泉質辞典02~信州の温泉へ行こう~
  【特集】泉質辞典03~信州の温泉へ行こう~
② 【特集】山の日なぜ【8月11日が祝日になった訳】さあ、山の日
③ 【特集】春のお庭に出かけよう~中信地区の庭園を訪ねて~
④ 【特集】発酵、健康 。~健康な菌未来を目指して~
⑤ 【特集】和菓子 、爛漫~信州に咲き誇る春の和菓子~
⑥ 【特集】いざ、山の日。~「山の日」に込めた願い~
⑦ 【特集】音楽の秋~音楽をいつまでも~
⑧ 【特集】これからの健康〜相澤病院相澤理事長へのインタビュー〜
⑨ 【特集】コラボの春01~イオジャパン×身近な企業~
  【特集】コラボの春02~マルコメ×モーニング娘。’17~
  【特集】コラボの春03~テンホウ×長野県内企業~
⑩ 【特集】水と信州~素晴らしきかな、水~
⑪ 【特集】地元に泊ろう~信州で日常の中の非日常を楽しむ~
⑫ 【特集】美しい写真の撮り方~その思い出は、本当はもっと美しい~
⑬ 【特集】アイス開き ~長野県の高評価な氷菓、集めました~
⑭ 【特集】信州の循環 ~循環という、恵り愛~

 

 
※連載小説「幸せのコンパス」絶賛公開中。
http://web-compass.net/2017/07/01/連載小説【第1話】幸せのコンパス/
日向穂志が持つコンパスは、北ではなく、幸せが潜む方角を教えてくれる謎のコンパス。彼はどこでそのコンパスを手に入れたのか。そして、なぜ妻・月子と不仲なのか。フリーペーパー「コンパス」で大人気の連載小説「幸せのコンパス」をお楽しみください。

 
■ フリーペーパー「コンパス」が、手に入る最寄りの場所を 検索 する

 
■定期配本のお知らせ
コンパスは発刊が 3月 / 6月 / 9月 / 12月の末日、季刊誌です。しかし、場所によっては入手しづらいこともあり、コンパスは多数の読者様のご要望にお応えし、定期配本を始めました。配送料 2,000円/年 にて4回お届けします。
定期配本のお申し込みは、コンパス編集部 0263-87-1798 までお電話いただくか お問合せ からご連絡ください。

 

骨壺

「土に還る骨壺」の 誕生秘話と感動のドラマ集 をご覧いただけます

 

 

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL