現代という時代の中の職人

  1. お墓

お墓を慮る

我々は石職人として、様々な方から石材に関するご依頼を受けます。専門である彫刻作業やお墓の建立はもちろん、「台所に石を張ってくれないか」といったものから、樹木葬についても質問されたりします。

職人


先日、インターネットで仏事を扱うA社さんから電話がありました。
「当社はお墓を建てたい方に<全国一律〇〇円で提供する>と唄っており、御社には〇〇円で作業をしていただきたいのですが」
時代ですね。話を進めました。しかし、強度や設計、長野という寒い土地柄や近隣の方たちへの配慮など不安な部分が残り、それに対する提案をもちかけると、相手方が次第に面倒になってきている事に気付きました。
「君たちプロなんでしょ?1を言ったら10で応えてよ。値段も決まった話なんだからそれ以上はこっちに迷惑かけないで」
といった具合。結局は「安くて簡単に、そちらでうまいことお墓を建ててくれ」ということなんですよね。
お仕事を頂ける事はありがたい事ですが、このお話しはお断りさせていただきました。

時代はどんどん便利になり、無駄を省き効率的に考える事はうなずけます。しかし、それでも省けないモノが存在していて、省いてしまったら成立しないモノがあります。今回のお話で言えば「安くてうまくやる」ためには工夫が要ります。そしてその工夫は決して簡単な事ではありません。1件ごと状況が異なれば段取りも変わり、最後にお届けするお施主さんの想いもそれぞれ違う。お墓は常にオーダーメイドです。また、そういった一つ一つが違う環境の中で経験や失敗を繰り返し、初めて職人は育っていくので簡単に省いてもいけません。

石に限った話ではなく、今、あらゆるジャンルにおける職人の工夫や経験、価値が安く言われてしまいがちです。省いてはいけない部分が合理化の中に埋没し、その価値を失わないような環境を作っていく事もまた、時代の中で生きる職人の仕事かもしれませんね。

 
- 取材協力 -
彫枡グループ
代表
杉本 弦洋 氏

住所:長野県松本市笹部4-477-5
TEL:0263-55-4320

本、出しました。

当サイトで最も高い閲覧数を誇る「今昔」。
それをさらに掘り下げ、書き下ろしました。

今すぐチェック

関連記事

墓じまいで、墓石をお地蔵さんに。

近年、増加傾向にある墓じまい。墓石の魂抜きから解体とありますが、「それだけでは味気ない」そう思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、お墓のプロ・杉本さん…

冬は石屋が進化する季節。

日本で発生する自然災害の一つ地震。あらゆる構造物を倒壊へと誘うこの災害は、お墓にも影響を与えます。そこで、マグニチュード7.2でもお墓が倒れない、そんな耐震技術をご紹介し…

納骨堂を開けたのは、いつが最後ですか。

お墓参りに行くと、お墓の掃除や周りの草むしりなどをしますよね。しかし、実は他にも綺麗にしておいて欲しい場所があります。ここでは、お墓のある場所を放置していたために、大変な…

冬は、お墓が凍みて(しみて)動き出す

冬の間にお墓の石がヅレていた、なんて経験をしたことはありませんか。実はこれ、凍みる(しみる)ことが原因のため、寒い地域ではよく起こる現象です。そこで今回は、お墓のメンテナ…

手書きの文字をお墓に彫る

ご存知ですか?お墓に大切な方の手書きの文字をそのまま彫ること(転写)ができることを。そこで、実際にあった転写にまつわる感動秘話をお届けします。…